肺がんで2度目の手術を受けたKさんは、術後に「肺の穴から空気が抜けているような感覚」と強い痛みに悩まされました。
こうした、手術後の痛み(慢性疼痛)とはどう向き合っていけばいいのか。
この記事では、ある患者さんと当医師が向き合い、ある一つの結論に辿り着いた過程を書いていこうと思います。
なぜ?がん治療後の慢性痛
がん治療後の慢性痛は多くの方が経験します。
アメリカのCDC(米国疾病予防管理センター)では、がん患者の20〜50%が治療後も慢性痛を抱えており、そのうち少なくとも30%は十分な鎮痛を受けられていないとされています。
(引用元:CDC. Chronic Pain Among Cancer Survivors. 2020.)
こうした慢性疼痛の多くは、神経障害性疼痛や中枢性感作と呼ばれる現象に由来します。
- 手術や放射線によって神経が損傷
- 異常な電気信号が発生し続け、脳が「危険信号」として強化
- 軽い刺激でも強い痛みを感じる
本来、脳は「危険が去れば信号を止める」仕組みを持っています。
ところが、その回路が壊れてしまうと、身体が回復しても脳が痛みを記憶したまま手放さず、痛みだけが年単位で続いてしまうのです。
標準医療の限界
標準医療では、がん治療後の痛みに対する治療は以下のように進められます。
まずは鎮痛薬、次に抗うつ薬や抗けいれん薬、神経ブロック注射などが用いられます。
しかし、これらは一時的に痛みの信号を弱めるための対処療法であり、痛みの記憶そのものを消すことはできません。
米国NIHの慢性痛治療ガイドライン(2022)でも、「薬物だけの治療では不十分」と明言しています。
そのため、他の療法を取り入れ「痛みの感じ方を調整する脳と神経の仕組み」を再教育していくことが本当は重要です。
だからこそ、日本の医療とタイの医療のアプローチの異なる点を知っていただきたいです。
当院の慢性痛との向き合い方
当院は、タイ・バンコクにある自然療法(タイ伝統療法)を主としたクリニックです。
統合医療を牽引するランシット大学の医師チームと提携し、最新の知見をもとにサポートを行っています。
※ここで紹介する方法は、タイ国内における合法的な医療行為です。
①THC・CBDオイル(タイ国内での医療大麻)
体内には「エンドカンナビノイド系」と呼ばれる仕組みがあり、神経の興奮が落ち着き、痛みの信号の伝達を和らげると考えられています。
THCやCBDはこの仕組みに作用し、痛みを調整する可能性があるとされています。

実際に進行がん患者を対象とした研究では、強い痛み止めでも抑えられなかった痛みが、THC:CBD製剤で緩和されたという結果も報告されています(Br J Clin Pharmacol, 2010)。
まずは1日1滴程度の少量から開始し、副作用(眠気・口渇・軽いめまいなど)を医師と話しながら調整します。
国際的な研究でも、依存のリスクはオピオイドより低いとされています。
②生活改善プログラム
・呼吸法
横隔膜呼吸を取り入れることで自律神経を整え、痛みに伴う不安や緊張を軽減。
・軽運動・ストレッチ
安全に動ける範囲で筋肉を使うことで、脳に「身体は安全」という信号を送ります。
・マッサージ
軽い刺激を繰り返すことで、過敏化した神経が「無害な刺激」を再学習します。
・睡眠改善
睡眠リズムの正常化は、痛みの閾値を高めることが複数の研究で示されています。
これらはすべて、脳の仕組みを使って新しい記憶を作る方法です。
脳科学ではニューロプラスティシティ(可塑性)を利用したアプローチとして、広く研究されています。
当院では「薬を出して終わり」ではなく、普段の生活を取り戻すことまでをサポートの一部と考えています。
・医師が症状に合わせてTHC・CBDの配合や用量を調整
・運動・呼吸・睡眠の方法を一人ひとりに合わせてアドバイス
これにより患者さんは「前より動けるようになった」「薬に頼らず眠れるようになった」という実感を少しずつ積み重ねることができます。
タイでの事例紹介
肺がん手術後、鎮痛薬と睡眠薬が手放せなかった50代男性。
THC:CBD含有オイルを少量から開始し、運動と食事リズムを整えるプログラムを併用。
その結果、1か月後には鎮痛薬や睡眠薬などの全ての薬を中止することができました。
趣味で車のエンジン製作や外出を再開し、気持ちが明るくなったことで、日本で検査した腫瘍マーカーは8→3.4まで低下。
「周りから『最近元気になったね』って言われるのが今でも嬉しい」と語ってくださいました。
※この症例はタイ国内での事例であり、日本国内の医療環境や治療法には該当しません。
痛みは上書きできる
痛みは必ずしも“今の身体”だけが原因ではありません。
鎮痛薬で「痛みを隠す」だけではなく、神経や脳が過敏に覚えてしまった痛みにアプローチすることが大切です。
当院では、タイ国内の法律のもとで、こうした統合的なサポートを行っています。
「痛みは治らない」と諦めていた方が、少しずつ生活を取り戻すためのお手伝いをしています。
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